東京地方裁判所 昭和30年(ワ)3998号 判決 1956年4月06日
事実
原告(株式会社東京都民銀行)は、被告(株式会社中田電機製作所)が東洋電波工業株式会社に宛て振り出した約束手形二通を右受取人より裏書譲渡を受けて現にその所持人であるが、満期日に支払場所に呈示して手形金の支払を拒絶されたので、被告に対し手形金四十七万円とこれに対する遅延損害金の支払を求める。被告主張の本件手形振出の事情は知らない。原告が東洋電波工業株式会社から本件二通の手形金を含めた金額を手形金額とする約束手形の振出交付を受けたことは認めるが、これは本件手形について被告のいうような更改をしたものではない。原告は右会社に原告に対する債務を承認せしめ、その債務の履行を確保させるために新たに右手形を入れさせたのであると述べた。
被告は、原告の主張事実中、手形裏書の事実は知らない。その余の事実は認める。東洋電波工業株式会社は本件手形のほかにも原告に対し多額の手形債務を負つていたところ、のちに本件二通の手形金額を含めた金額を手形金として別に新しく一通の約束手形を原告に差入れた。すなわち、東洋電波工業株式会社と原告との間に本件手形について更改(債務者を右会社に交替する)が行われ被告の本件手形債務は消滅したのであるから、被告は本件手形金支払の義務を負わないと述べた。
理由
東洋電波工業株式会社が本件手形金額計四十七万円を含めた金額を手形金額とする約束手形を新しく振り出して原告に交付したことは、原告も認めている。しかしこれによつて被告の本件手形債務について債務の交替による更改が行われたことは、これを認めうる証拠がない。かえつて、原告が不利益を甘受しなければならなぬ特段の事情が認められぬこと(更改が認められるとすれば債務者は右会社一人だけになつて原告は不利益を受ける)と、右新手形の授受に拘らず原告は本件各手形を返していないこととを合せ考えると、右新手形の授受は、原告と東洋電波工業株式会社との間の取引関係だけを処理したにとどまり、原告と被告との間の債権債務関係には何もふれることがなかつたと認めるのが相当であるから被告の抗弁は理由がないとして原告の請求を認容した。